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Selfishly

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S,P5 「思惑」


スローライフ S 

          Pa 4 「 思惑 」

H18,11/14 03:00


急ぐ予定もなかったので、エドワードはのんびりと本を探索していた。
ロイは今朝も、今日も直接イーストシティーに行くと言っていたので、
一人分の食事の準備を思うと、手間をかけようという気がおきない。
エドワードは つくづく、料理とは食べてくれる人がいるから
頑張れるのだと気づかされた。

いつもなら、自分の専攻の分野のコーナーか
やはり錬金術関連のコーナーにいる事が多いのだが
今日は、新しい料理のレパートリーでも増やそうかと
一般の書籍の置いてあるコーナーを廻っている。

週末の大学の図書館は、そこそこ混み合っていて
この大学の学生たちの勉学熱心さが伺える。
入るのも難関だが、卒業するにはさらに狭き門となる
国立セントラル医大では、必死にならざるをえないのだろう。

そんな中で、料理雑誌を取り上げて熱心に読んでいるエドワードは
やや周囲からは浮いているかも知れないが、
自分の興味の事意外は無頓着な彼には
あまり気にかけるような事でもないのだろう。

「何を熱心に読んでるの?」

聞き覚えのある声に、本から目を離して振り向くと
そこには思ったとうりの人間が立っていた。

「やぁ。」

エドワードも、最近 良く顔を合わせるようになってきた彼女に
気軽に対応できるようになってきた。
告白されたのを断った時には、やや 気まずさを感じていたが
さっぱりとした性格の彼女は、すでに その事を忘れたように
エドワードに変わりなく接してくる。
おかげで、エドワードも変に気を張らないで
彼女と付き合っていけている。

彼女個人の事は、エドワードにしてみれば 
付き合いやすい部類の人間でもあった事も大きい。

はきはきとした話し方で、頭の回転もいい。
変に遠慮や躊躇うような事もなく、
はっきりと自分の意見や意思を告げてくるのは
エドワードにしてみれば、理解ができない事が多い女性達の中では
わかりやすい。
偏見や、妙なこだわりも持たないようで、
エドワードの 世間ずれしている点に気づいても
特に気にするような所もないし、詮索もしてこない。

そういう点では、いつもつるんでいるディビットやアルバート、
そして、共通点が多いレイモンド達の次には付き合いやすいと
言っても良いだろう。

エドワードが 読んでいた料理の本を示すと、
フレイアは感心したように頷いている。

「エドは料理にも興味があるのね。

 私なんて、作ってもらうばかりで
 自分でなんて、できないわよ。」

「へぇー、料理しないんだ。」

エドワードの周囲にいた女性は皆、料理が上手かったので、
女性で料理をしない人間がいると言うことに、少々 驚きを示す。

「あら? やっぱり 女性は料理位できなきゃって思う?」

驚いているエドワードに、可笑しそうに笑いながら聞いてくる。

「う~ん、女性だからとは思わないけど、
 自分の周囲の女の人は、結構 皆、料理上手だったから
 そんなものかとは思ってた。」

「羨ましいわね。
 きっと、料理の才能があったのよ。

 私なんて、何度教えてもらっても
 野菜を切る回数より、自分の指を切ってる回数のが
 多かったもの。」

綺麗に手入れされている手の平をヒラヒラと振りながら
肩を竦めて、嘆息をついて見せる。

「誰でも最初は、そんなもんだろ。

 じゃあ、母親が料理してくれてるんだ?」

昔なら、少しの羨ましさと、僅かな痛みを感じていただろうセリフを
今は、すんなりと言えるようになっている。

「いいえ、うちは家系上 全員、ダメなのよ。

 代わりに、昔から居てくれてるナニーが
 すごく料理上手なんで、皆でお世話になっていると言う訳。」

「へぇっ、そんなに上手なんだ。」

自分の興味のある事には熱心なエドワードが
フレイアの食卓の料理のレパートリーに関心を持たないわけがなく、
その後は二人で話し込む事になる。



「じゃあ、手間かけて悪いんだけど。」

「いいえ、大丈夫よ。
 うちのナニーは、人好きなんで きっと大歓迎よ。」

「サンキュー。
 それじゃあ、明日は昼過ぎには行かせてもらうよ。」

「ええ、私もエドの腕前を楽しみにしておくわ。」

互いに、明日の約束をしながら別れて帰途に着く。

フレイアの料理人の腕は、かなりのもののようで
エドワードが知らない料理や、ぜひ 食べたい、食べさせてやりたい料理が
目白押しだったが、肝心のフレイアが料理に興味がないせいか
詳しくレシピを聞けなかった事もあり、
気を利かせた彼女が、ナニーを紹介してくれる事になった。

最初は、そこまでしてもらう事に気が引けたのと、
ディビット達に、少々 忠告を受けていた事もあり
エドワードも レシピか聞いてきてくれるだけでいいと断ったのだが、
料理に疎い自分が聞いても良くわからない事と、
老齢のナニーでは 多くの文字を書くのは大変だと話され、
一瞬 考え込んだのだが、
休日まで遠方で仕事をしているロイの嬉しそうな顔が浮かぶと
躊躇いがちに、紹介をお願いする言葉を告げていた。

エドワードは、明日の料理の事を考えて
ウキウキとしながら帰り道を歩く。

『あの料理は、絶対にロイが好きそうだよな。
 帰ってきたら、ビックリするぞ。』

ロイの喜ぶ顔を想像すると、エドワードの気合も俄然力が入って行った。
その時のエドワードの頭の中には、ディビット達が話してくれた
忠告は、すっかりと抜け落ちていた。




*****

「こんにちは、今日は お顔の色が良さそうで安心しました。」

「ええ、ありがとうございます。
 最近は、何だか調子が良くて嬉しいんです。」

ニコリと微笑むローゼに、ロイも優しく微笑み返す。

そして、お土産にと持ってきた箱を手渡す。

「これは! まぁ、ありがとうございます。
 わざわざ、お持ち頂いたんですね。」

「ええ、先日 ここのお菓子がお好きだとお話されていたんで、
 来るついでにと思いまして。」

ロイが 持ってきた焼き菓子は、セントラルの有名な店で
ロイも何度となく足を運んでいる店だ。
エドワードの土産にも良く買って帰るし、
エドワード自身も気に入って、一緒に行った事もある。

早速、頂いても宜しいですかと恥ずかしそうに聞いてくるのに
頷いてやり、聞いてきたお菓子の説明をしてやる。

「まぁ、じゃあ これは 今回の新作と言うわけなんですね。」

季節ごとに商品が変わるこの店の新作は
お菓子が好きな女性には、殊更 喜ばれる。
特に期間限定の商品は、作られる数も 期間もマチマチで
そうそう口に入ると言う訳ではないので、
朝から 並んで買おうとする人の列ができる程だ。

ロイは、店主に頼んで 新作が出ると自分用に
1つ取り置いてもらえるようにしてある。
これは、エドワードが家に来てからの事で
当然、エドワードに喜んでもらう為だ。

料理の他に、お菓子作りにも熱心なエドワードが
新作を食べては、自分も作ってみたりしては
結構、楽しみにしている。

『今回は、エドワードには また、別の機会だな。』
エドワードの喜ぶ顔が見れないのが、少々残念な気持ちだが
たまたま、出かける前に連絡があり
もう一つ余分をと聞いてみたところ、
折悪しく、全て販売した後との事だったので仕方がない。

そんな気持ちが表情に出ていたのか、
ローゼが心配そうに伺ってくる。

「マスタング様?
 お疲れなのではありませんか?

 お仕事を終えて、すぐに来られたんですよね?
 
 申し訳ありません、私ったら 自分の事ばかりで・・・。」

自分の浮かれ加減への恥ずかしさと、
ロイを気遣えなかった事を申し訳なく思う気持ちで
ローゼは、シュンと気落ちした様子を見せる。

「あっ、いいえ そんな事は御気になさらず。

 少し、残してきた仕事が気になっただけですから。」

ロイは、思わず崩れていたポーカーフェイスを被り直し
そつなく話題を変えて、ローゼの気持ちを浮上させて行く。

それからしばらく話した後、
ローゼの身体を思いやる言葉を告げて、退出をする。

用意されていた客間に戻ると、
ロイは やれやれと行儀悪くベットに座り込む。

『駄目だな私も。
 
 どうも、エドワードの事を考えると
 気づかない内に、考えを表してしまっているようだ。』

自分では、さほど変わっている気はなかったが、
軍のメンバーにも、わかりやすくなったと言われてた事も思い出す。

ローゼのように聡い人なら、ロイの様子にもすぐに気づかれる程には
ロイの心情は見えてしまっていたようだ。

自嘲の笑みを浮かべ、思い浮かべると声が聞きたくなった恋人に
電話のダイヤルを回す。

数回のコールで出てきたエドワードに安堵しながら、
ロイは 話し出す。

いつもと変わりない会話を楽しんでいる間に
明日の予定の話になり、自分の帰宅時間を告げ、
エドワードの予定を聞く。

『うん、明日は 昼からは料理を教えてもらいに出かけてくる。』

「料理? 今更、君の腕で教えを請う必要もないようだが・・・。」

『俺なんて、まだまだだよ。

 明日会う人なんて、俺が知らない料理とか一杯知っててさ、
 ロイが好きそうな料理も沢山あったから、
 楽しみにしてろよ。』

嬉しそうに話すエドワードに、ロイは気がかりを聞いてみる。

「そのぉ、教えて下さる方は どちらの女性なんだい?」

『ああ、友人の家のナニーとかで、
 結構、おばあちゃんらしいけど?』

そんな事が興味あるのか?と思ったのだろう
返す返事が微妙なトーンになっていた。

「そうか。 
 じゃあ、失礼のないようにしないとね。

 何か手土産は用意しているかい?」

ロイは 内心で考えた事はおくびにも出さすに
エドワードに話を振る。

『えっ? ああ、そうか! そうだよな。
 訪問するんだから、何か持っていった方がいいんだよな。』

ロイの質問の意図が そこにあったのかと、
エドワードは感心したように返してくる。

「そうだね、お料理が好きなら それに関するものか、
 やはり、女性なら年齢に関係なく花にするかだろうな。」

『・・・さすがは、ロイ・マスタング殿』

ロイの浮名の華々しさは、過去の事とはいえ
エドワードの記憶にも残っている。
妙に拗ねたような口調になっているのは、
ロイの気のせいばかりでもないだろう。

「おや? 妬いてくれているのかな?」

嬉しそうにロイが返すと、
エドワードが 慌てたように弁解をする。

『ち!違う!

 ・・・さすがに、歳の巧だと思っただけだ。』

多分、真っ赤な顔で不貞腐れながら言っているだろうエドワードを想像して
ロイは、クスクス笑う事を止められなかった。

『もう! 笑うなよ!

 そんなんじゃないって、言ってるだろ!

 もう、切るぞ。』

照れたエドワードが、この後に 電話を切る事は間違いない。
ロイは、止めとばかりに最後の言葉を伝える。

「お休みエドワード、愛してるよ。」

受話器の向こうでは、絶句しているのだろうエドワードの
息を吸い込む音が聞こえたと思ったら、
大音量で受話器がおかれた音がロイの鼓膜を痛めつけた。

顔を顰めて受話器を置くと、
ロイは、エドワードとの会話を思い出して
楽しげに笑い続けた。

遠く離れているが、少しだけ慰められて眠れそうだ。
ロイは、そんな事を考えながら
暗い窓の外を、ぼんやりと眺める。




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